抄録
野生動物の保護管理において、その栄養状態や繁殖成績の把握は最重要課題のひとつであるが、それが長年月にわたって継続されている動物個体群は世界的にも多くない。高崎山の餌付けニホンザル群と幸島の餌付けニホンザル群は、長期に上述データの蓄積が行われてきた。本発表では、繁殖母体である成熟雌の体重・体長・出産率を2個体群間で比較した結果を発表する。
体重については、高崎山雌では成長に伴う増加の後、18歳頃から急激に減少する傾向があったが、幸島雌では加齢による顕著な減少は認められなかった。一方、幸島雌の体重は非常に年変動が大きく、変動パターンは個体間で同調していることがわかった。これは、自然食物の豊凶の影響を受けていると推測される。体重年変動を考慮し、2007年と2008年の2年のデータを用いて成熟雌の体重を2群間で比較したところ、両年とも高崎山群の方が重かった。
体長については、高崎山雌では成長に伴う増加の後、加齢に伴う短縮は認められなかった。一方の幸島雌ではまだ調査年数が不十分であり、明瞭な傾向は不明である。
出産率については、高崎山雌の方が初産年齢が早く最終出産年齢が遅い傾向があり、かつほとんどすべての年齢で高い値を示した。
以上の結果は、高崎山群の方が相対的に給餌量が多いことが、高崎山雌の方が栄養レベルおよび繁殖成績が高く、幸島雌体重が自然食物の豊凶に影響を受けやすいという結果につながっていると推測される。