霊長類研究 Supplement
第28回日本霊長類学会大会
セッションID: A-12
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口頭発表
シロテテナガザルとボウシテナガザルにおけるミトコンドリアDNAのイントログレッション
*松平 一成Reichard Ulrich H.Malaivijitnond Suchinda石田 貴文
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抄録
[背景・目的]Hylobates属のテナガザルは7種に分類され、それぞれの種は側所的に生息しているが、生息域が隣接する3つの地域において交雑が報告されている。しかし、それらの交雑を遺伝学的に示した研究はなく、また交雑によって周辺に住むテナガザルの遺伝子プールにどの程度別種の遺伝子が流入しているかについては、調べられていない。本研究では、シロテテナガザル(Hylobates lar)とボウシテナガザル(Hylobates pileatus)の交雑が報告されているタイのKhao Yai国立公園において、シロテテナガザルにおける、ボウシテナガザルからのイントログレッションの有無を調査した。
[方法]2010年6~8月および2011年3~5月に、Khao Yai国立公園の2種の交雑地域から西に20~30kmのMo Singto、Khlong E-tau地域に生息するシロテテナガザル17群67個体および単独オス1個体の糞便を収集した。これから得られたDNAについて、mtDNAの超多型領域Iを含む631~632塩基対の配列を決定し、データベース上に登録されているテナガザルの配列との比較解析を行った。
[結果]68個体について、11のハプロタイプが確認された。その内、1つのハプロタイプがボウシテナガザルのものであった。9個体がこのハプロタイプをもち、それらの個体は少なくとも2つの母系の家系に属し、ひとつの家系では3世代にわたってこのハプロタイプが伝達されていた。よって、野生のテナガザルにおいてmtDNAのイントログレッションが起きていることが初めて示された。
[考察]外見的特徴からは、9個体全てが褐色タイプのシロテテナガザルと判断され、雑種個体に見られるとされているボウシテナガザル(オトナのオスは黒色、メスは灰白色で、どちらも異なる色の毛が帽子状に生えている)との中間的特徴は見られなかった。このことと、3世代にわたってボウシテナガザルのmtDNAが観察されたことから、両種の交雑が起きて遺伝子が流入してから、相当な世代数が経過していると考えられる。
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© 2012 日本霊長類学会
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