抄録
野生下でのオランウータンの出産間隔は6~9年であり、陸上棲哺乳類では最長である。オランウータンは2種3亜種に分類されているが、種および亜種によって出産間隔が異なっている(スマトラ:9年、ボルネオ:6~7年)。スマトラ島は火山性で栄養豊富な土壌である為、非火山性土壌のボルネオ島よりも果実生産量が高く、オラウータンの栄養状態が良いと言われている。このことからオランウータンでは栄養状態が良い(死亡率が低い)環境であれば、出産間隔が長くなる、という仮説が提唱されている。しかし飼育下や、餌付けされている半野生下(保護されて人に育てられた後、森に放された個体)では、種・亜種に関わらず、出産間隔が短くなる(6年)と報告されている。本発表では、最も栄養状態が悪い(果実生産量の変動が激しく、果実生産量が少ない期間が長い)と言われている、ボルネオ島北部に生息する亜種Pongo pygmaeus morioの雌の繁殖(妊娠・出産・乳幼児の死亡)を報告し、果実生産量が雌の繁殖に与える影響について考察する。
ボルネオ島マレーシア領サバ州のダナムバレー自然保護区内のDanum川の両岸2km2の一次林を調査地とし、2005年3月から2011年12月まで、毎月平均15日間、オランウータンを探索及び追跡した。また栄養状態を測定する為に、ヒト用尿試験紙を用いて尿中ケトンを調べた。
6年間で10頭の雌が9頭のアカンボウを出産した。うち1頭(雄)は出産後1週間以内に消失し、1頭(雄)が4歳で消失したが、他8頭は2011年12月末の時点で生存していた。また2011年に死産または新生児死亡が疑われる1事例があった。妊娠は2010年に集中(4/10)しており、2010年に起きた一斉開花の影響の可能性がある。発表では、尿中ケトンおよび果実生産量の変動の結果とあわせて、果実生産量が雌の繁殖に与える影響について考察する。