霊長類研究 Supplement
第28回日本霊長類学会大会
セッションID: A-24
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口頭発表
身体障害のある野生チンパンジーのアカンボウの症例と周辺個体の対応
*中村 美知夫井上 紗奈伊藤 詞子
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抄録
[目的]
 後天的な負傷を除けば、野生下で身体障害のあるチンパンジーが観察される例は少ない。マハレで、おそらく先天的に身体障害を持っていると思われるアカンボウが観察されたので、その症例を報告する。

[方法]
 身体障害のあるXT11(2011年1月生、メス)の観察をおこなった。おもに9~11ヶ月齢にかけて、身体的特徴、身体能力、および母親や周辺個体がどのようにXT11に対応しているのか、についての情報を収集した。

[結果と考察]
 外部から判断できるXT11の特徴として、背中の脊髄部分が盛り上がりその部分の毛が少なく、腹部には4~5センチほどの瘤がある。また、左手に6本目の指があるが、通常の指よりも細く、骨が入っていないのか手の角度によっては外側にだらりと曲がっている。また、顔の表情が通常よりも弛緩している。吸乳に問題はないようで、同齢児よりもやや体格は小さいものの、栄養状態は良好に見える。
 身体能力に関しては、上肢の把握力には問題ないため、母親の腹部の毛を掴むことはできる。しかし、下肢の把握力は完全ではなく、母親の腹部を掴めずにだらりと落ちてしまうことが多い。このため、母親は、移動する際に頻繁に片手でXT11を押さえねばならず、三足での歩行となることが多かった。さらに、体幹を立てることができず、自力で座ったり立ち上がったりすることはできない。このため、母親は毛づくろいなどの際には、XT11を地面に仰向けに寝かせていることが多く、樹上で採食する際にも常にXT11を支える必要がある。
 母親のXTは、これまでの子の場合、非血縁個体にも頻繁に運搬させ、どちらかと言えば放任型のメスであった。しかし、XT11については上の娘XP以外には一切運搬させず、非血縁のコドモが触るのを牽制することも観察された。娘のXPにも初めはあまり運搬させなかったが、観察後半では積極的にXT11の運搬を促す例も観察された。XT11の成長に伴い運搬する負担が増えたことが理由の一つかもしれない。
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© 2012 日本霊長類学会
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