霊長類研究 Supplement
第28回日本霊長類学会大会
セッションID: B-04
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口頭発表
チンパンジーとヒトにおける作業記憶課題のパフォーマンスと加齢の影響
*村松 明穂松沢 哲郎
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抄録
 Inoue & Matsuzawa(2007)は,チンパンジーのアイ(当時31歳)とアユム(当時5.5歳)の作業記憶課題の正答率を比較し,チンパンジーが加齢の影響を受けている可能性を示した。しかし,縦断的な検討は行っていない。また,Inoueらは,ヒト(大学生)も実験の対象としたが,加齢の影響については検討していない。本研究では,先行研究と同じ装置・課題を用い,チンパンジーとヒトそれぞれの作業記憶課題のパフォーマンスに対する加齢の影響について調べ,比較した。
 マスキング課題では,チンパンジー3親子を対象とした。オトナ群の平均年齢は31.7歳(ヒト換算で47.5歳),ワカモノ群はすべて11歳(ヒトで16.5歳)であった。タッチモニタ画面上のスタートキーをさわると,非連続なアラビア数字が5個呈示された。そして,一番小さい数字をさわると,残りの数字がマスキングされた。参加者は,マスキングされた刺激を小さい数字から順にさわるよう求められた。
 時間制限課題では,チンパンジーはアユム(11歳)・アイ(36歳),ヒトは若齢群(平均26歳)・高齢群(平均62歳)を対象とした。スタートキーをさわると非連続5数字が呈示され,一定時間(全6条件)経過後,自動的に全数字がマスキングされた。
 マスキング課題において,チンパンジーのワカモノ群の正答率はオトナ群より有意に高かった。しかし,両群とも,アユム以外は,Inoue & Matsuzawa(2009)での同課題の正答率より下がった。また,時間制限課題において,アユムの正答率はアイより有意に高かった。しかし,アユム・アイともに5年前よりも正答率が下がった。従って,チンパンジーについては,縦断的にも横断的にも加齢の影響が認められた。ヒトの参加者では,若齢群の正答率が高齢群より有意に高く,ヒトについても横断的な比較によって加齢の影響が認められた。
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© 2012 日本霊長類学会
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