霊長類研究 Supplement
第28回日本霊長類学会大会
セッションID: B-05
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口頭発表
チンパンジーにおける「盲視」
*植田 想兼子 峰明友永 雅己
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抄録
 ヒト以外の霊長類における意識や内省は、ヒトのこころの進化を考えるうえで興味深い。しかし、ヒト以外の動物における意識の研究はヒトと同様の言語報告を主とした方法で進めることはできない。一方、第一次視覚野に損傷を受けた患者では、主観的な見え(知覚経験)は成立しないが行動には視覚情報が反映される「盲視(blindsight)」という現象が起きることが知られている。盲視を調べることで、視覚処理における意識と無意識の役割を考えることができるのではないだろうか。本研究の目的は、大脳右半球後頭部に嚢胞が見つかり、行動課題から視野の問題も確認されているチンパンジー(宮部ら、投稿準備中;兼子ら、投稿準備中)を対象に盲視の可能性を検討することである。盲視における、主観的な見えと、視覚情報の行動への反映という2つの側面を調べるため、モニターに呈示される光点の有無を報告させる検出課題と、先行呈示された光点の位置を2点の候補位置から強制的に選択させる強制選択課題を用いて検証した。チンパンジーはトラックボールを使ってモニター上のカーソルを操作することで課題を遂行した。課題中の視線の移動は非接触・非拘束型のアイトラッカーで記録した。検出課題では、半数の試行で画面中央のターゲットへのヒット後、画面周辺に光点プローブが128ms呈示された。その後1000ms以内に中央エリアからカーソルを移動させることが要求された。一方、強制選択課題ではプローブ呈示後、2点の候補位置が呈示された。うち一方はプローブと同位置であり、位置の再認を強制的に行わせた。Go/NoGo課題において、先行研究で確認されていた患部での光点検出率は著しく低かった。一方、強制選択課題におけるこの領域内での正答率は53.4%でチャンスレベルよりも有意に高くなった(p < .01)。この結果は、光点検出ができないにもかかわらず、強制選択では位置の再認が可能であることを示し、盲視の可能性が高いことを示唆している。
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© 2012 日本霊長類学会
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