抄録
目的,カニクイザルは主要な実験動物の一種であるが種内での遺伝的差異が大きい上に,交配可能なアカゲザルとの遺伝子交流の頻度は産地ごとに異なると予想される.我々は産地による遺伝的差異を解明し,実験動物としてのカニクイザルの利用価値を高めるために,今回はマレーシア産カニクイザルの全ゲノム配列の決定を行った.
方法,独立行政法人医薬基盤研究所・霊長類医科学研究センターで飼育管理されているマレーシア産カニクイザル(F1,オス)末梢血から抽出したゲノミックDNAをサンプルとした.カニクイザル全ゲノム配列にはSOLiD 3 Plusシステムを用いて約4.9 × 109リードを得た.ゲノムマッピングにはBioScopeを用い,リファレンス配列としてインド産アカゲザルゲノムを用いた.
結果,インド産アカゲザルゲノムへのマッピングの結果,マッピング率は69.8%,合計1.1 × 1011 bpがマッピングされ,平均41.5倍のカバレージを持つマレーシア産カニクイザルゲノムデータを得た.インド産アカゲザルに対する1塩基多型(SNP)解析はSamtoolsを用いて行った.その結果およそ960万のSNPが検出された.更に,得られたゲノム配列をこれまでに決定されたベトナム産カニクイザル,中国産アカゲザル,インド産アカゲザルと比較することにより,カニクイザル-アカゲザル間で完全に分離しているSNPを同定した.免疫関連遺伝子群,薬剤代謝遺伝子群にかかわる遺伝子の中では60個の非同義置換が種特異的変異の候補として見つかった.全SNPデータはcDNAライブラリ,BACクローン,マイクロサテライトデータとともにデータベースを構築して公開している.
考察,非同義置換SNPはカニクイザルとアカゲザルにおける薬剤や病原体に対する種特異的な反応を規定する候補因子を探索する際に有用なデータとなる.高カバレージのカニクイザル全ゲノム配列はマカク種内での遺伝的差異の解明のための基礎データとして,さらに実験動物リソースとしての価値を高めると考えられる.