抄録
糖鎖は、DNA鎖、タンパク鎖とならんで生物にとって重要な鎖であり、糖タンパク質や糖脂質を構成し、発生や免疫など様々な生命活動に関わっている。シアル酸は、糖鎖を構成する糖のひとつであり、糖鎖の末端に位置し受容体に認識されることで、細胞内シグナル伝達を介した細胞間相互作用において重要な働きをしている。Siglec-11は、そのシアル酸を認識する受容体のひとつであり、主としてマクロファージで発現している。近年我々は、Siglec-11がヒト特異的に脳での発現を獲得するとともに、ヒト特異的にシアル酸認識能が変化していることを見いだした(Hayakawa et al. 2005)。また、Siglec-11遺伝子とSiglec-16遺伝子との間にヒト特異的な遺伝子変換がみられ、この遺伝子変換がSiglec-11の発現と機能の変化の原因と考えられた。このようにSiglec-11は、ヒト特異的に発現・機能・配列が変化しており、ヒト特異的な分子と見なすことができる。
Siglec-11のヒト特異的な変化について、より詳細な解析をおこなったところ、脳のミクログリアでの発現と脳内のリガンドの存在が確認された。さらに、Siglec-16遺伝子のnull alleleによるSiglec-11遺伝子の遺伝子変換が、Homo属の系統でおこっていることが明らかになった。興味深いことに、このnull alleleによる遺伝子変換は、Siglec-11遺伝子を偽遺伝子化しないように複雑な形でおこっていた。このことは、遺伝子変換によるSiglec-11の発現・機能変化は進化的選択の結果であり、ヒトSiglec-11の進化が特殊であることを示している。
本結果は、ヒトSiglec-11がヒトの進化に関係していることを示唆しており、ヒト化の分子基盤を理解するための一助となると考えられる。