霊長類研究 Supplement
第28回日本霊長類学会大会
セッションID: B-29
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口頭発表
新世界ザル野生集団における苦味受容体遺伝子群の多様性と採食果実の香気成分分析
*河村 正二櫻井 児太摩白須 未香松下 裕香Melin AmandaBergstrom Mackenzie今井 啓雄東原 和成太田 博樹Aureli FilippoFedigan Linda
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抄録

 最近の研究から霊長類の化学物質感覚は他の哺乳類に比べて必ずしも劣っておらず、野生下の採食行動においても視覚と相補的に働き、センサー遺伝子レパートリーも縮退しているわけではないことが示されてきている。我々はコスタリカ共和国グアナカステ保護区サンタロサ地区に生息し、これまでに色覚種内多型を持つことが実証されている新世界ザルのチュウベイクモザル(Ateles geoffroyi)とノドジロオマキザル(Cebus capucinus)の野生群を対象に、化学物質センサーの中で遺伝子レパートリー規模が比較的小さく有毒物の検出という点で生存に対する意義も比較的明確な苦味受容体(TAS2R)ファミリーの多型性解析とサルが採食する果実の香気成分の分析に着手した。これまでに6種類の機能遺伝子(TAS2R1,4,9,16,40,42)と1種類の偽遺伝子(pTAS2R60)について、クモザル1群60個体とオマキザル4群88個体に対して糞DNAからPCR法での遺伝子単離を行ない塩基配列を決定した。また、乾季の植物18種から果実や花弁の94サンプルを採集し香気成分を分析した。
 その結果、新世界ザルのTAS2R1Mはリガンド結合部位のアミノ酸がヒトと異なっており、リガンドがヒトと異なる可能性があること、ヒトとチンパンジーのTAS2R遺伝子群は機能制約が緩んでいると考えられているのに対し、新世界ザルでは機能制約が強いこと、オマキザルのTAS2R1TAS2R16は群れ間で顕著な集団分化を示し、地域適応的な自然選択を受けている可能性があることを示した。また、香気成分分析に関しては313種類の化合物を検出し、成熟と未成熟の間で香気成分種類数に差が大きい果実ほどよく匂いが嗅がれる傾向があることを示した。これらのことから多型的色覚の新世界ザルは恒常的3色型の狭鼻猿類より味覚や嗅覚により依存している可能性が考えられる。

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© 2012 日本霊長類学会
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