霊長類研究 Supplement
第28回日本霊長類学会大会
セッションID: A-02
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口頭発表
野生チンパンジーにおいて母親の行動がアカンボウの採食品目および採食行動に与える影響
*松本 卓也
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抄録
植物食の霊長類のアカンボウは、環境内の膨大な植物種の中から、必要な栄養素を補うための植物種および植物部位を取捨選択し、採食する必要がある。これまで、採食品目の選択に関わる要因として食物分配に焦点をあてた研究が多くなされ、アカンボウが独力で採食困難な品目を学習する機能が論じられてきた。しかし、アカンボウが独力でも手に入れることができる、採食が容易な品目を、アカンボウが多様な植物の中からどのように取捨選択しているかという点を詳細に分析した研究はこれまで行われていない。
 本研究は、アカンボウ期が約5年と長いチンパンジーを対象に行なった。チンパンジーの母子は比較的メンバー数の少ないパーティで遊動することが多く、アカンボウが母親以外の個体から受ける影響は小さいと考えられる。本研究では、母親の活動がアカンボウの採食行動にどのように影響するかを捉えるため、(1)母子の採食品目や採食場面におけるやりとりの分析、および(2)母親と同時に採食する際のアカンボウの採食行動の分析を行なった。調査対象はタンザニア・マハレ山塊国立公園の野生チンパンジーM集団に属する母子10組である。
 その結果、母親と同時に採食をする場合、アカンボウは母親と同じ採食品目を選択する傾向があった。その理由として、アカンボウは母親と常に同じパーティで遊動しなければならず、母親のいる場所から遠く離れることができないという身体的な影響が考えられる。特に1歳半までのアカンボウにおいては、母親と同じ植物種の異なる部位を採食している時間割合が高かった。その理由として、アカンボウの消化能力や咀嚼能力が未発達であるために、母親がアカンボウにとって採食困難な品目を採食していた場合、母親の近くで採食容易なものを選択して採食している可能性が示唆された。母親からアカンボウへの奨励や禁止など、教育と捉えられるような直接的なやりとりは観察されなかった。
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© 2012 日本霊長類学会
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