抄録
チンパンジーの慢性的なストレスを客観的に定量することは、動物福祉の観点から重要である。コルチゾルは身体的・精神的ストレスにより変動するホルモンであり、これまで血・糞・尿・唾液から測定がおこなわれてきた。しかし集団で飼育されているチンパンジーにおいて、それらサンプルの収集は難しいことが多く、保存にも手間がかかる。そこで今回新しいサンプルとして毛に着目し、毛中のコルチゾルの抽出・測定を試みた。霊長類研究所と熊本サンクチュアリのチンパンジー合計24個体(オス14個体・メス10個体)から毛を採取した。対象個体が慣れ親しんだ飼育者・研究者がはさみで毛の根本近くから切った。霊長類研究所では、2009年と2011年に2回毛を採取した。熊本サンクチュアリでは、まず毛を2回採取した。1度目は2009年5月末で、2度目に2009年8月末に同じ場所の毛を切った。分析は2度目の毛のみおこなった。また、5月末から8月末まで、毛が育つのと同じ期間、糞をできるだけ集めた。3度目は、2011年11月で、チンパンジー腕・背中・脇腹より毛を採取した。抽出にはメタノールを用い、分析はELISA法を用いておこなった。結果、チンパンジーの毛からコルチゾルの抽出ができた。同じサンプルを2度分析したところ、再現性は高かった。また、毛中コルチゾルと糞中コルチゾルの相関と体の部位での違いの検討を検討した。本発表では、これらの結果ふまえて今後、毛中コルチゾルが個体ベースでの動物福祉を評価するうえでの有用性について議論したい。