霊長類研究 Supplement
第29回日本霊長類学会・日本哺乳類学会2013年度合同大会
セッションID: D2-2
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口頭発表
オランウータンの塩場利用
*松林 尚志*小林 夏生*Peter L*Abdul H
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抄録

 ボルネオ島北部のマレーシア・サバ州は,スマトラサイやバンテン,アジアゾウ,オランウータンなどの大型哺乳類が生息する希少な地域の一つである.現在,州の森林保護区の内,完全保護区である保護林は13%,木材利用ができる商業林は 71%を占める.そのため,多くの野生動物が商業林に生息しており,野生動物を考慮した商業林管理の必要性が指摘されている.これまで我々は,野生哺乳類にとっての湧水タイプの塩場(塩なめ場)の意義を示すことで,商業林内の塩場周辺環境の保護区化を提案し,森林管理に採用されるようになった.その調査で初めて明らかになったことの一つに,樹上生活者であるオランウータンが,塩場を高い頻度で訪問することがあげられる.そこで我々は,「オランウータンは塩場で何をしているのか」を明らかにするために,簡易センサーカメラとハイビジョンカメラによる行動観察と個体識別を行った.簡易センサーカメラで確認されたオランウータンを,フランジオス,子連れメス,その他(若い個体など)の 3つのクラスに分類し解析した結果,オランウータンは,1)全てのクラスが塩場を利用し,その割合は,フランジオス30%,子連れメス17%,その他 53%であったこと,2)クラスにより塩場での滞在時間や行動が異なること,3)複数個体での同時利用も行うこと(子連れメス同士,子連れメスと成熟オスなど),さらに4)子連れメスとアンフランジオスとの交尾行動が確認された.また,ハイビジョンカメラにより,ある塩場では少なくとも 10頭以上の利用個体がいることが判明した.以上の結果は,オランウータンにとって塩場は,ミネラル摂取といった生理的な意義に限らず,雌雄間のコミュニケーションサイトとしての社会的な意義もあることを示している.

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© 2013 日本霊長類学会
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