霊長類研究 Supplement
第29回日本霊長類学会・日本哺乳類学会2013年度合同大会
セッションID: E1-7
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口頭発表
果実食性になった食肉目パームシベットの採食生態
*中林 雅*ハミッド・アブドゥル アハマッド*幸島 司郎
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抄録

 本大会では,マレーシア・ボルネオ島に生息する食肉目ジャコウネコ科パームシベットの採食生態について発表を行う.
【背景と目的】パームシベットは,発達した犬歯,裂肉歯,短い消化器官等,食肉目に共通する形質を有しながら,果実が食物の 70%以上を占める果実食傾向が強い食肉目である.パームシベットは,消化を阻害する大きな種子を飲み込み,果実を十分に消化しないまま排泄する等,食肉目特有の形態が果実の利用を不利にしているように見え,長い進化史において果実食に適応してきた果実食者とは異なる採食戦略を採ることが考えられる.そこで,パームシベットの採食戦略を明らかにするために,以下の観察を行った.さらに,パームシベットが選択する果実の特徴を明らかにするために,果実中の化学物質の分析を行った.
【方法】2012年 12月から 2013年にかけて,結実木で,パームシベットを含む果実食者の採食行動を観察した.観察項目は,結実木を訪れた種,結実木での滞在時間(分),採食時間(秒),果実選択時間(秒)である.また,同一結実木内において,パームシベットが選択した果実と,標準果実の化学物質の組成を,高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いて分析し,比較した.
【結果と考察】結実木での観察の結果,パームシベット 2種(Paradoxurus hermaphroditus, Arctogalidia trivirgata)の他にサイチョウ(Anthracoceros albirostris)とカニクイザル(Macaca fascicularis)が観察された.パームシベットは,結実木での滞在時間,採食時間,果実選択時間すべてにおいて他の 2種よりも長かった.このことは,パームシベットが利用可能な果実は限定されていることを示唆している.また,パームシベットによって選択された果実は,標準果実よりもグルコース量が有意に多かった.その他の化学物質についても分析を進め,得られた結果を基に考察を行う.

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© 2013 日本霊長類学会
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