霊長類研究 Supplement
第29回日本霊長類学会・日本哺乳類学会2013年度合同大会
セッションID: E2-1
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口頭発表
マダガスカル熱帯乾燥林におけるチャイロキツネザルの種子散布距離
*佐藤 宏樹
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抄録

 モンスーンの影響によって明瞭な雨季と乾季に分かれるマダガスカル西部の熱帯乾燥林では,動物の行動特性が季節的に大きく変化する.マダガスカル西部ではチャイロキツネザル (Eulemur fulvus)が最大の種子散布者として重要な役割を担っているが,その機能の季節的な変化については報告がない.本発表ではアンカラファンツィカ国立公園に生息する野生チャイロキツネザルの行動パターンとその種子散布機能,とくに種子散布距離の季節変化について検証していく.
 1つの群れを対象に 1年間で 101回の終日観察 (06:00 - 18:00)を行い,群れの採食時間と餌資源を記録し,群れの位置を 5分おきに GPSで測定した.果実採食と結実樹木間の移動を繰り返す雨季は日遊動距離が長かった(1163 ± 413 m).乾季は朝夕の多肉植物の葉食と昼間の木陰での休息に長時間を費やすため,遊動距離が短かった(465 ± 211 m).乾季の葉食と休息は乾燥暑熱条件における水分摂取と体温上昇回避のための行動戦略だと考えられる.
 チャイロキツネザルの種子の消化管通過時間(平均 229分,最長 420分)を考慮すると,午前中に摂食した種子の散布は観察中に完了する.午前中の果実食は 1年で 419バウト確認された(雨季 257バウト,乾季 162バウト).各バウトの結実樹木からの推定種子散布距離は雨季(平均 195 m)の方が乾季(平均 84 m)より長くなった.雨季は 200 m以上の長距離散布が散布種子の 40%を占めたのに対し(最長 1076 m),乾季の長距離散布は 5%にとどまり,母樹下(20 m未満)には 15%の種子が散布された(最長388 m)
 環境ストレスに適応して.変化するチャイロキツネザルの行動戦略は,直径 10 mm以上の大型種子植物の種子の広がり方に強く影響するだろう.雨季結実植物はチャイロキツネザルによって種子を遠くに播くことができる一方,乾季結実植物の種子の広がりは比較的狭く,母樹下に運ばれる多くの種子は死亡率が高いと考えられる.

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© 2013 日本霊長類学会
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