抄録
翼手目のほぼすべての種は夜行性である.これは,1) 猛禽類などの昼行性の捕食者の回避,2) 鳥類との餌資源をめぐる競争の回避,3) 日光による体温上昇の回避,といった理由が考えられている.一方,夜の長さは緯度に応じて変化するため,高緯度地域に生息する種では,活動可能な時間(夜の時間)が季節的に大きく変化することが予測される.旧熱帯区を分布の中心とするオオコウモリ類の中で,北限に生息するクビワオオコウモリ Pteropus dasymallusでは,活動可能な時間が夏至と冬至ではおよそ 4時間も異なる.1日に必要とする活動の内容が同じであるとすると,このような夜の長さの変化に対して,オオコウモリは活動時間や行動をどのように調節しているのであろうか? 2002年 4月から2006年 1月に,沖縄島中南部に位置する琉球大学周辺と北部の森林地域(やんばる)において,ラジオ・トラッキング調査を行った.ねぐらからの出巣時刻(活動開始時刻)と帰巣時刻(活動終了時刻),夜間活動中の各行動(採餌・休息・睡眠・社会的な行動・飛翔)に費やされた時間を記録した.クビワオオコウモリの平均活動開始時刻は日の入り後 11.8 ± 43.4分,活動終了時刻は日の出前 32.8 ± 21.4分であった.これらの時刻は日の出・日の入り時刻の季節的な変化に応じて変動した.しかし,やんばるでは,冬期の活動開始時刻が日の入り前にシフトし,昼間に採餌活動を行っていた.したがって本種では,夏期の夜の時間不足を補うかたちで単純に活動時間を早めるのではなく,逆に冬期に活動時間を増加させていることが明らかになった.クビワオオコウモリの活動性は基本的には光周期に依るものの,季節的な餌不足や台風などの悪天候によって柔軟に変化しうると思われる.