抄録
ブータンのアッサムモンキーの群れのメスに GPS首輪を装着し,その位置データを得るとともに,直接観察によって位置データを収集した.直接観察においては,群れのメス個体に装着した VHF発信機の電波によっておおよその群れの位置を把握した後,目視で群れの位置を確定した.GPS首輪では深夜も含めて毎日定刻に位置測定と記録を行い,直接観察では毎月ほぼ連続した約 10日の日中に調査を行った.両者の結果を比較して,両方法の利点,欠点を検討,整理した.GPS首輪による測位成功率には月変化はほとんど見られなかったが,深夜の測位成功率が極端に低くなるという時間帯による変化があった.これはこの地域のアッサムモンキーが,夜の泊場として垂直な岩壁の窪地をよく利用し,岩壁が遮蔽物となって衛星からの電波が遮蔽されてしまうからであると考えられた.最外郭法により推定した月行動圏は,GPS首輪による測定では 3.2~8.5km2,直接観察では 2.7~ 4.4km2であり,GPSで推定した行動圏は,直接観察で推定した行動圏より大きく,直接観察によって得られた行動圏のほとんどを包含していた.また,大きな季節移動のあった 5月,直接観察では GPSで把握された月行動圏の30%程度しか把握できなかった.直接観察では,交尾,出産,社会行動など GPS首輪による位置測定だけからは得られない有用な情報が得られるが,行動圏推定という目的に限ると,行動圏に大きな季節変化のある集団の調査では GPS首輪の利用が有利なことが明らかになった.