抄録
熊本,大分,宮崎県境に位置する祖母山系は九州で最後にツキノワグマが捕獲された地域であるとともに,絶滅のおそれのあるニホンカモシカの主要な生息地でもあり,九州本島の生物多様性のコアエリアと言える.近年のニホンジカ個体群の高密度化と,それによる林床植生の衰退は極めて深刻であり,生物多様性の低下を招いている可能性がある.また九州のカモシカは,環境省レッドリストにおいて絶滅のおそれのある地域個体群とされ,その個体数減少の原因として,近年急増したシカとの競合,重篤な伝染病,防鹿ネットによる羅網等が指摘されているが実態は明らかではない.そこで,広域的に多数の自動撮影カメラ(SensorCamera Fieldnote Duoシリーズ,麻里府商事)を配置し,中大型哺乳類の撮影率の違いを検討した.5000カメラ日を超える調査により,1)シカは標高にかかわらず高い頻度で撮影されること,2)カモシカは高標高(>1000 m)では撮影されず,中標高(500-1000 m)の限られた地点において 1~数ヶ月に 1回程度の低い頻度で撮影されること,3)ノウサギは中標高でのみ撮影されること,4)中型食肉類 6種(キツネ,タヌキ,テン,イタチ類,アナグマ,アライグマ)が生息することがあきらかとなった.シカを除く中大型哺乳類の撮影率は中標高よりも高標高で低い傾向があり,林床植生の衰退と関係がある可能性がある.カモシカについては 1年間の調査で計 24回 60枚の写真を得ることができ,一部の個体についてナチュラルマークによる個体識別が可能であった.重篤な皮膚病に罹患した個体は確認されず,現時点において皮膚病は本地域のカモシカにとって大きな死亡要因ではないと推察された.