霊長類研究 Supplement
第29回日本霊長類学会・日本哺乳類学会2013年度合同大会
セッションID: F2-3
会議情報

口頭発表
野生ニホンザル群の追い払い時におけるモンキードッグの移動追跡
*吉田 洋*林 進*中村 大輔*北原 正彦
著者情報
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録
 近年,ニホンザル(Macaca fuscata)による被害を軽減するために,全国各地でモンキードッグ(サル追払い犬)の導入が進められている.しかしサルを追払うためにリードを放した後のイヌの行動を,目視により観察し続けるのは難しく,その際のイヌの行動は不明である.そこで本研究では,GPSテレメトリーを用いて,イヌの行動学的知見を得ることを目的とした.調査は約 40個体で構成される,野生サル「吉田 A群」の行動圏である山梨県富士吉田市および富士河口湖町で実施した.集落や農地でサルの群れの目撃が通報されるとすぐに,5秒ごとに測位するように設定した GPSロガー(i-gotU GT100, Mobile Action Technology, Taiwan)をイヌに装着し,サルを目視できる地点で放し,その後イヌがケージに戻った時点まで調査を行った.
調査の結果,モンキードッグ 3個体,計 146回の追払いのデータを得ることができた.サル追払い時のイヌの出動時間および移動距離には,個体間で有意差が認められたが,係留を解いた地点から最標高地点までの標高差と,イヌの行動圏(95%MCP)には,5%水準で有意差は認められなかった(Kruskal-Wallis test).このことから,出動時間および移動距離にはイヌの個性が反映されるが,イヌの行動圏には個性が反映されないといえる.また初出動からの日数と,イヌの移動距離および出動時間には,負の相関が認められたが,イヌのルートの標高差と行動圏には,相関は認められなかった(correlation analysis).このことから,イヌは追払いの経験を積むと,より省力的にサルを追払うようになり,イヌの回収までの時間の短縮,イヌの疲労回復に必要な時間の短縮,イヌが迷子になるリスクの低減といった,より効率的な運用が可能になることが期待できる.さらに,サルは追払われる経験を積むと,より迅速に避難するようになるため,人里での学習機会が減少し,被害が低減したと考える.
著者関連情報
© 2013 日本霊長類学会
前の記事 次の記事
feedback
Top