抄録
増加するシカによる食害は,農林業被害の増大だけでなく,水土保全など森林の持つ公益的な機能の低下をもたらしつつある.シカの個体数をできるだけ短い期間で適正な規模に調整するための新たな捕獲技術を開発する必要がある.このため,野生ニホンジカに人工餌(ヘイキューブ)を一時的に提示し,その行動反応を記録した.
静岡県富士宮市に位置する静岡森林管理署国有林内で 2011年度,2012年度にシカの捕獲を行った.2011年度は約 20kmの林道沿いに 19カ所の給餌場を設置し,2011年 12月 24日~ 2012年 2月 12日まで 50日間,2012年度は約 28kmの林道沿いに 20カ所の給餌場を設置し,2013年 1月 4日~ 2013年 2月 21日まで 49日間,固形化した乾草(ヘイキューブ)を給餌した.給餌量は「給餌場所を見つけやすくする」「餌が常在していることを覚えさせる」「給餌場に長くとどまらせる」段階に応じて,1~ 3kgに変化させた.すべての給餌場に赤外線自動撮影装置を設置し,シカの出没状況を記録した.また,同一の給餌人が同一時刻に給餌を行った.
ヘイキューブを用いた誘引には行動の条件付けが必要であり,条件付けの強さは給餌のタイミング,下層植生の有無,積雪に影響された.シカは,給餌開始直後から下層植生が消失した区間に出現し,高い頻度で安定して給餌場に出現した.これに対して,下層植生が残存する区間では降雪をきっかけに出現頻度が高まり,積雪期間中は安定して出現した.
給餌期間中,2011年度は 6日間にわたり,2012年度は 12日間にわたり,ライフルを用いた捕獲を行った.3頭以下の群れだけを対象とする,などのルールをあらかじめ決めた結果,捕獲実施後も出現頻度の低下は起こらず,抑制の効いた捕獲(射撃)はシカに無用の警戒心を起こさせないことが明らかとなった.