抄録
演者らは,これまで漁業被害対策として北海道で採捕されたトドから生物試料を収集し,生物学的知見を蓄積してきた.しかし,大型獣ゆえの困難さから,基本計測値である体重を量る機会は限られている.さらに体長等の計測はハンターなどによることが多く,測定誤差や測定方法の誤りを含む場合もあり,正確な情報とは言い難い.
トドの体重推定には,体長と胸囲の関係式(Castellini and Calkins 1993)が用いられることが多い.しかし,前述のように,測定値の信頼性が低いことから,上式によらない体重推定が必要である.そこで,収集が容易かつ調査員による計測が可能な,各内臓部位を用いて体重との関係を検討した.
北海道沿岸において採捕・混獲により得られたトドのうち,体重が計測された 140個体の資料を使用した.各内臓重量(肺・心臓・肝臓・脾臓・腎臓)と体重の相関は,概ね高く,メスでは肺,脾臓の順,オスでは肝臓,脾臓の順に高かった.このうち,内臓重量の全項目が計測された 35個体(メス26,オス9)の各測定値を説明変数とし,雌雄別に重回帰分析のステップワイズ変数選択により体重推定式を作成した.選択された変数は,メスは肺,心臓および脾臓(R 2=0.8686),オスは肝臓のみ(R2=0.7919)であった.
本研究により,内臓重量により体重推定が可能であることが示された.しかし,全ての臓器を収集する負担は大きいことから,雌雄ともに相関が比較的高い,脾臓を用いた単回帰式が実用的であると考えられた.また,より精度の高い推定のためには,季節的な体重変動を考慮した式を検討する必要があろう.