抄録
【背景】哺乳類の骨格の中で,距骨および踵骨は比較的よく機能形態学的・古生物学的研究がされている.しかし,現生動物の距骨・踵骨サイズの種内変異を詳しく調べた研究はまだ少ないので,化石動物の距骨・踵骨の変異を考えるときの基準に乏しかった.
【目的】本研究では現生哺乳類の距骨・踵骨サイズの成長過程における種内変異を明らかにするために,例としてニホンザルの幼獣個体を対象に,距骨・踵骨サイズの変異および体重との関係を調べた.
【資料と方法】ニホンザルの幼獣 244個体(オス142;メス102)の距骨,54個体(オス30;メス24)の踵骨,および個々の個体の体重データ.デジタルノギスで距骨・踵骨のそれぞれ4カ所を計測.
【結果と考察】自然対数変換したデータを用いて,体重と距骨および踵骨の各計測値との単変量アロメトリーを調べたところ,reduced major axisについての雌雄差はほとんどなかった.したがって,先行研究において成獣における距骨サイズに雌雄差があったが,この成獣における雌雄差は,性の違いというよりもむしろ体重(身体の大きさ)の違いに起因すると考えられる.ただし,踵骨のデータは,まだ数が少ないので,今後増やす必要がある.
体重に対する距骨サイズは,滑車の幅は等成長(傾き~1/3)で,長さと幅は過成長(傾き>1/3),距骨頸部の長さは劣成長(傾き<1/3)だった.これは,距骨の滑車の幅を使えば,先行研究で求めた成獣における距骨サイズから体重を求める式がニホンザルの幼獣にも適用できるということを示している.
また,距骨の計測値について多変量アロメトリー解析をおこなった.滑車の幅はやや劣成長,長さは過成長,幅はやや過成長,頸部の長さは劣成長となった.つまり,成長(距骨が大きくなる)とともに,距骨の滑車の幅と頸部の長さは相対的に小さくなることを示している.