抄録
北海道太平洋側に周年生息しているゼニガタアザラシ Phoca vitulina stejnegeriの北海道内の生息個体数は,1970年代と比較すると約 5倍以上に増加している.北海道内で襟裳岬に次いで二番目に大きな本種の上陸場である厚岸・大黒島の上陸個体数も近年,増加傾向が見られ,それに伴い厚岸地域周辺の漁場では漁業被害が深刻化している.また,漁業被害の一方で,鰭脚類が漁網で溺死する混獲も多く報告されている.そこで本研究では,道東太平洋側の沿岸定置網に混獲された個体を回収し,混獲時期・混獲個体の特徴,胃の内容物や衛星発信機による潜水記録などから,本種の食性や採餌生態を明らかにし,地域漁業との関係性を知ることを目的とする.調査は北海道東部の太平洋側を対象とし,7つの漁業協同組合(白糠,釧路,釧路東部,昆布森,厚岸,散布,浜中)の地元漁業者の協力のもと,2012年 4月下旬から開始した.回収の際に混獲個体が生きていた場合は外部計測を行った後,衛星発信機を装着し放獣した.また,死亡していた場合は外部計測後に胃を摘出し,骨片や耳石などの硬組織を用いて胃内容物の同定を行った.胃内容同定を行った結果,多くの個体からスケソウダラやコマイ,メバル属などの出現が確認できた.これらの魚種は対象地域の定置網で漁獲されていることや,アザラシの胃を開いた際に半分以上の内容物が原型を留めていたことなどから,混獲された個体の殆どが定置網付近で採餌行動をしていると考えられた.また,生体個体に取り付けられた発信機による潜水行動記録から,本種の主な潜水深度は 0-50mと極めて浅く,これらの水深は定置網の設置水深とも一致しており,同所的に採餌および漁業が行われていた.発表では以上の内容に加えて本年 8月までのデータを加え,太平洋側のゼニガタアザラシの漁業被害の現状と食性について報告する予定である.