抄録
キツネは,北海道におけるエキノコックス症のもっとも重要な媒介動物である.またヨーロッパにおいては,狂犬病の主要な感染動物として知られている.これら人獣共通感染症のリスク評価を行い,効果的な対策を立案するためには,媒介動物の感染率とともに個体数,特に地域的な密度差を知ることが重要である.しかし,大面積における野生動物の個体数推定は困難であるため,これまでキツネの個体数あるいは密度差は未知のものとして扱われてきた.筆者はこれまで,北海道根室半島において,繁殖巣のカウントによってキツネの個体数推定を行なってきたが,この方法は大面積には適用できない.一方で,動物の糞を数えて個体数指標とする方法が,これまでノウサギやシカ,カモシカなどの調査に広く用いられてきた.この方法は,糞の発見が容易な動物種であれば,専門的知識のない人間でも実施可能という利点がある.イギリスでは,この方法をキツネに応用し,ボランティアを用いて,イギリス全土のキツネ個体数を糞の数から推定するという試みを行なっている.そこで,北海道全域のキツネの密度差を推定するために,車道 500mを 1トランセクトとし,その両側の路肩を踏査してキツネの糞を探し,糞数あるいは発見されたトランセクト数をもって個体数指標とすることを立案した.今回は,この方法を実施するために必要な基礎的データの収集を行ったので報告する.行った調査は,同一トランセクトで発見される糞数の日変化,発見された糞の残存期間,踏査法の検討等である.これらの調査結果から,大面積に本法を実施する場合の課題と解決策について検討した.