抄録
山梨県では,2000年以降にアライグマの確認がされており,甲府市や富士五湖周辺,県東部等で比較的多くの目撃・被害情報がある.アライグマによる農作物や生態系への被害は各地で報告されているが,山梨県の被害状況はあまり知られていない.しかし,山梨県は農業が盛んで,森林が約 78%を占めている.このような環境であれば,アライグマは農作物や生態系に対して影響を与えている可能性が示唆される.本研究では,2010年 12月から 2013年 5月に山梨県で捕獲された個体の捕獲地点周囲の環境を地図データから調べ,環境別に何を選好して食べているかを明らかにし,アライグマが及ぼす農作物被害と生態系被害の現状把握,影響評価に努めることを目的とした.本研究では,捕獲された個体の腸内容物を 1.00mmメッシュのふるいを用いて水洗いし,ポイントフレーム法により分析した.捕獲地点周囲の環境は QGISを使用し,国土地理院発行の数値地図 25000を用いて捕獲地点から半径 1km円内の森林・農耕地・居住地等の割合を求めた.結果として,腸内容物からは動物質では小型哺乳類や鳥類,カエル類,甲殻類,昆虫類などが確認され,植物質ではカキやブドウ,クワなどの液果やクリなどの堅果,トウモロコシなどの穀果が確認された.夏季に動物質のものを多く食べ,冬季に果実を多く食べている傾向がみられた.また,森林を多く含む環境で捕獲された個体は動物質のものを多く捕食する傾向にあり,農地を多く含む環境で捕獲された個体は果実類を多く採食する傾向がみられたが,夏季の森林域に生息する個体でもクワなどの野生由来の果実やブドウ,トウモロコシなどの農作物を採食していた.山梨県ではブドウなどの果樹園が多くあるため,個体数が増加すると農作物への被害も増加すると考えられる.鳥類やカエルの捕食が確認できたことや他県での生態系被害の事例を考慮すると山梨県でも生態系への被害が起こる可能性が考えられる.