抄録
アカギツネ(Vulpes vulpes)は北半球に広く分布する中型食肉目であり,地域ごとに多様な食性を示す.本研究では,ブルガリア中央部において狩猟によって捕獲されたアカギツネの胃内容物を調査し,本種の食性について性,捕獲地域,捕獲年の違いについて比較した.バルカン山麓の丘陵帯および山地帯の 2地域において 1997年から 2009年の冬季に計 315個体のサンプルを得た.全体ではネズミ類が42.9%(相対出現頻度)と最も高い割合で出現し,野生有蹄類14.0%,家畜 10.3%が続いた.当地域のアカギツネはネズミ類を主に捕食するとともに,狩猟残滓や屠畜残滓も利用したと考えられた.捕獲地域間および雌雄間の栄養ニッチ重複度指数はいずれも 0.99であり,食性の地域差と雌雄差は認められなかった.その一方で,胃内容物構成は年ごとに異なっており,特にネズミ類の相対出現頻度は 30.4~ 62.8%と捕獲年によって変化した.胃内容物中のネズミ類の出現の有無について,性,捕獲地域,捕獲年との関連性を一般化線形モデルによって解析したところ,捕獲地域と捕獲年およびその相互作用項を説明変数として含むモデルが選択され,ネズミ類の出現傾向が捕獲地域と捕獲年によって異なることが示唆された.各地域のアカギツネの食性の年変化と気候との関連性を確認するために,ネズミ類の相対出現頻度や胃内容物の多様度指数と近隣都市の測候所における気候データとの相関分析を行ったが,冬季の平均気温や積雪日数との間に有意な相関関係は認められなかった.ネズミ類の利用可能量に影響を与える冬季の気候とアカギツネの食性との間に関連性が見られなかった原因は,当地域が比較的温暖な気候であるためと推測された.