霊長類研究 Supplement
第29回日本霊長類学会・日本哺乳類学会2013年度合同大会
セッションID: P-38
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ポスター発表
放牧地におけるコウベモグラの生息地選択 ―放牧によるモグラ類の被害管理の可能性―
*樫村 敦*篠原 明男*小林 郁雄*長谷川 信美*土屋 公幸*森田 哲夫
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抄録

 モグラ類は地下にトンネルシステムを構築し,土壌動物を採食する地下生哺乳類である.地表部へのモグラ塚形成は牧草の採草時に土壌混入を引き起こし,サイレージの品質を低下させるため,モグラ類は欧州を中心に草地畜産の害獣として扱われてきた.このようなモグラ類による獣害を防止するために,土壌改良等を介した間接的防除法に関する草地管理研究が行われてきたが,実用性に乏しく,モグラ類の実際の行動生態を踏まえた研究は少ない.一方,放牧地では,踏圧による土壌圧縮や採餌による植物由来有機物層の減少など,家畜の行動が土壌微小環境を改変させ,非放牧区とは異なった土壌動物相になる.つまり,モグラ類と家畜が共に利用する放牧地においては,家畜が利用可能な区域と利用できない区域間で土壌微小環境が異なり,モグラ類の生息地選択に影響している可能性がある.そこで本研究では,放牧地におけるモグラ類の生息地選択と,放牧による土壌微小環境の改変との関係を検証した.放牧地ではコウベモグラ Mogera woguraのラジオテレメトリーにより生息地選択を評価し,家畜が利用可能な放牧地内と,家畜が利用することのできない牧柵下の軟土壌層,有機物層の厚さおよび土壌動物相を比較した.その結果,牧柵下の方が放牧地内に比べて軟土壌層(20.2 ± 0.3 cm vs. 1.3 ± 0.0 cm)および有機物層(3.5 ± 0.0 cm vs. 0.6 ± 0.0 cm)が有意に厚く,土壌動物相の多様性(H’)(2.46 ± 0.46 vs. 0.58 ± 0.12)も高かった.さらに,コウベモグラ全個体が牧柵下を選択的に利用した.したがって,放牧により土壌微小環境および土壌動物の分布が変化し,これらがコウベモグラの生息地選択に影響したと考えられた.すなわち,家畜の放牧はモグラ類の行動を間接的に制御している可能性が窺えた.

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© 2013 日本霊長類学会
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