抄録
樹上性のエゾモモンガ Pteromys volans oriiは小鳥用巣箱を繁殖場所およびねぐらとして利用することが知られている.また,半樹上性のヒメネズミ Apodemus argenteusも主に繁殖のために巣箱を利用することから,ヒメネズミの繁殖がエゾモモンガの巣箱利用に影響を与えることが予想される.そこで本研究では,北海道富良野市の東京大学北海道演習林において,ヒメネズミの巣箱利用がエゾモモンガの巣箱利用に影響を与えるかどうかを明らかにすることを目的とした.調査は 2010年から 2012年までの非積雪期である 5月から 10月にかけて,トドマツ優占針広混交林において実施された.120個の巣箱を架設して,個体を捕獲することで直接利用が確認された巣箱数(以下捕獲巣箱数)を月毎にカウントし,年毎に両種の捕獲巣箱数の比較を行った.2010年における調査では,エゾモモンガが捕獲されたものの,ヒメネズミは捕獲されなかった.2011年における調査では,ヒメネズミの捕獲巣箱数の増加に伴いエゾモモンガの捕獲巣箱数がわずかに減少する傾向が見られた.2012年における調査では,ヒメネズミの捕獲巣箱数の大きな増加にも関わらずエゾモモンガの捕獲巣箱数も増加する傾向が見られた.3年を通して見てみると,ヒメネズミの捕獲巣箱数の多少にかかわらず,エゾモモンガの捕獲巣箱数では大きな変化が見られなかった.以上の結果から,エゾモモンガの巣箱利用は,ヒメネズミの巣箱利用の増減によってほとんど影響がないことが示唆された.しかしながら,今回の調査ではヒメネズミの繁殖に伴う巣箱利用が,エゾモモンガの繁殖にまで影響を与えるかどうかは判断できなかった.今後継続して研究を行うことで,繁殖への影響の有無が明らかになっていくだろう.