抄録
ニホンジカ Cervus nipponは,奈良公園や宮城県金華山島などの疎林では,発情期にメスを巡って激しく闘い一部の優位個体が縄張りをもつことが知られている.また,縄張りをもたない個体もメスと交尾するチャンスを探している.このようなことから,発情期のオスにとって,どこに居るかは交尾のチャンスを得る上で重要である.宮城県金華山島北西部に生息するニホンジカは 1989年より継続的・追加的に個体識別され,発情期には成獣オスの発情行動,地図上の位置などが記録されてきた.1995年から 2003年までの発情期の成獣オスの行動圏の年変化を調べた.3年以上の行動圏が得られた個体は 6個体であった.6個体とも行動圏の大幅な移動はみられず毎年ほぼ同じ場所を利用していた.この内 2個体はなわばりを獲得した年と獲得しなかった年の行動圏が得られたが,どちらの個体も行動圏の位置はほとんど変化しなかったが,集中的に利用する場所には変化が見られた.ライバルの質や数や分布,なわばりの位置や保持する個体などが,年によって変化していることは充分予想される.また,今回は充分な分析はできていないが,メスの数や分布の変化がこれらに影響している可能性もある.それにもかかわらず,オスの行動圏は安定していた.このことは,そのような状況によって集中的に利用する場所は変化しても,慣れ親しんだ場所を中心に行動していることが示唆された.