抄録
近年,全国的にニホンジカの個体数が増加し,森林植生にさまざまな影響が生じている.栃木県奥日光では,植生への影響を軽減するために約 15 kmの防鹿柵が設置されている.そのため,シカの影響により柵内外の植生構造は大きく異なっている.さらに,これまでの研究の結果,柵外ではシカの植生改変や糞量増加により昆虫類とミミズ類は増加しているが,ネズミ類は減少傾向にあることが報告されている.したがって,これらの動物を餌資源とする食肉目のアカギツネとニホンテンの食性も柵内外で異なることが予想される.これらについて明らかにすることは,シカの食肉目への影響だけでなく,食肉目の食性の可塑性を評価する上でも重要な位置を占める.本研究では,シカの影響により食肉目の食性が変化するのかどうかを明らかにするために,キツネとテンの上記餌動物の利用度を柵内外で比較した.
キツネとテンの食性は,柵内外で採集した糞を分析することで調べた.糞の採集にあたっては,まず柵内外に踏査ルート(柵内は約 15 km,柵外は約 10 km)を設定した.そして,2006年 6月から2011年 9月にかけて,踏査ルート上の糞を採集した.糞の採集数は,キツネは 333個(柵内は 183個,柵外は 150個),テンは 744個(柵内は 285個,柵外は 459個)であった.
糞分析の結果,キツネとテンの糞から出現した昆虫類とミミズ類の頻度は,柵内よりも柵外で高い傾向がみられた.すなわち,シカの影響を受けた餌動物の増減に応じて食肉目の食性も変化していた.
したがって,キツネとテンの食性はシカの影響を受けた生息環境下では可塑的に変化すると結論した.今後,シカの食肉目への影響について詳細に議論するためには,このような食性の変化が個体群の成長率にどのような影響を及ぼしているのかを明らかにする必要がある.