抄録
エゾシカの生息数の増加に伴い,エゾシカと車両との交通事故が大きな社会問題となっている.交通事故防止策として様々な対策が講じられており,その一つとしてディアホイッスル(DW)があるが,その効果に関する評価は分かれている.警戒声に似ている DWがより有効であるという報告もあることから,DWの代わりに実際のエゾシカの警戒声を使用することの有効性が期待される.本研究では警戒声の有効性を明らかにするため,実際にエゾシカとの交通事故が多発している地域の野生個体を対象に走行中の車両から流した場合の ①警戒声の効果, ②有効範囲を,個体の特定が可能で細かい行動が観察できる動物園の飼育個体を対象に ③音量を徐々に上げていったときの反応を開始する音圧,.同一個体に繰り返し聞かせた場合にどの程度で慣れを生じるかを調査した.警戒声はエゾシカに警戒行動をさせる効果があり,反応範囲は対象個体位置より手前から開始し,通過後 600m付近までに終了した.また音圧は平均 50.5dB ± 15.7dBで反応を開始することが分かった.この結果より,警戒声を車両通過時にエゾシカに向けて流した場合,エゾシカの警戒を促して一時的に静止させることで道路侵入を防ぐ効果があることが示唆され,またエゾシカに警戒行動をさせるためには 50dB程度の音圧で十分であると考えられた.しかし同一個体に対して繰り返し聞かせると徐々に警戒行動を示さなくなること,また音の聞こえる範囲が DWではエゾシカの約 150m手前から約 215m先までであったのに対し,今回使用した警戒声ではエゾシカより約 65m手前から約 180m先までと範囲が狭く,効果が劣ったことから,今後は実用化に向け音声をデジタル化する等音質を改善し,慣れを回避するための何らかの対策を講じることが必要であると考えられる.