抄録
ツキノワグマ Ursus thibetanusの行動圏は広く,また個体間の行動圏は重複するといわれている.なわばりの存在はみられないという報告がある一方,メスの集中利用域には排他的な空間が存在するという報告もあり,詳細には明らかになっていない.そこで,GPS首輪による個体追跡データを用いて,メスの集中利用域に排他的空間が存在するかどうかを明らかにしようと試みた.
長野県中央アルプスの伊那市権現山山域に生息するメスを対象個体とした.調査期間は,追跡データ数が十分に得られた 2011~ 2012年の 7月 1日~ 11月 30日までとし,7~ 8月を夏季,9~ 11月を秋季とした.集中利用域は,50%カーネル法を用いて,2011,2012年の各年を夏季と秋季に区分して算出した.集中利用域の重複していた個体は,個体ごとに重複率を求めた.
2011~ 2012年で,12頭 (成獣 10頭,亜成獣 2頭 )の追跡データを得た.集中利用域の重複は,夏季,秋季ともにみられた.特に 2011年夏季は,全ての個体に他個体との重複があった.個体ごとにみると,重複のみられなかった個体が 2頭,秋季のみ重複のみられなかった個体が 2頭いた.しかし,8頭は全ての期間で重複がみられた.また,最大で 6頭と重複する個体を確認した.最も高い他個体との重複率は,成獣メスの 99.7%(2012年夏季 )だった.この個体は,全期間通して重複率 70%以上と高かった.また,どの期間においても集中利用域の重複していた個体を 2組確認した.
全期間を通して集中利用域の重複が存在することや,重複率の高い個体を確認したことから,この地域ではメス同士の排他的空間は存在しないと考えられ,同所的な空間利用が頻繁にみられることが示唆された.