抄録
希少動物の保全については各国で多くの対策が展開されている.しかし域外保全された飼育下個体を野生に復帰させる再導入の事例は限られており,日本において野外への再導入にまで至った種類は鳥類(コウノトリとトキ)だけである.再導入事業は韓国や中国でも行われており,その進捗状況は種類によって様々である.本研究では韓国におけるツキノワグマ,キツネ(韓国では希少種),コウノトリ,タンチョウ,トキの 5種,中国におけるシフゾウをとりあげ,事業の現状と諸問題について比較検討した.韓国で絶滅危惧種に指定されている動物は哺乳類では 20種,鳥類では 61種であるが,2006年に政府が策定した「絶滅危機種の増殖・復元総合計画」(2006-2015年度 )の支援対象は,哺乳類が 7種,鳥類が 1種であった.日本の場合と異なり,事業が進んでいるのは哺乳類である.智異山で行われているツキノワグマの再導入事業は 10年以上の実績があり,人慣れをはじめとする放獣に伴う諸問題も確認されている.鳥類ではコウノトリが飼育下で 100羽以上に増えるなど増殖は進んでいるが,放鳥にまでは至っていない.野生復帰の事業を進めている団体は大学から準政府機関まで様々であり,国や自治体から支援を受けている場合が多かった.事業の殆どには地域住民が深く関わっていて,両国とも自治団体は農家との契約,名誉保護員制度,認証制度を通じて生息環境づくりや地元商品のブランド化を図っていた.中国のシフゾウについては,野生復帰を目的とした大.(ダーフェン)麋鹿国家級自然保護区(面積 700km 2)が 1986年に開設され,英国から返還された 39頭をファウンダーとして放された.現在は中国内の複数箇所において再導入が進められている.