抄録
マイクロサテライトマーカーは様々な野生生物の集団解析や家系解析,個体識別などに利用されているが,近縁種で開発されたものや 2塩基繰り返しのものを使用することが多く,正確なタイピングが困難な場合があった.近年,次世代シーケンサーの急速な普及によって短期間で大量の遺伝子情報を得ることが可能となり,マイクロサテライトマーカーの単離も容易となった.そこで本研究ではトドを例に,次世代シーケンサーを用いて新たに繰り返しが 3塩基以上であるマイクロサテライトマーカーを探索し,得られたマーカーを用いたトドの遺伝子解析への応用を検討した. 北海道で採取されたトド 1個体から抽出した粗 DNAを用い,454RocheGLXによってシーケンシング分析を行った.得られた塩基配列の中からタンデムリピートファインダーによってマイクロサテライトを含む配列を探索した結果,2~5塩基の繰り返し配列を含むマイクロサテライト領域が 886座位得られた.このうち 3~5塩基の繰り返し配列 655座位中 20座位について同じく北海道で採集された24個体分の試料を用いて増幅の確認と多型の検証を行った結果,8座位で多型性が認められ,対立遺伝子数は 2~4個で平均 2.63であった.ヘテロ接合体率の平均は観測値 Ho=0.54,期待値 He=0.47であった.トドの複数の個体群を対象としたマイクロサテライトマーカー 6座位による集団解析の先行研究では,個体群あたりの平均対立遺伝子数は 4.75であり,本研究で開発したマーカーは変異性がやや小さいものと考えられた.一方,開発した 8座位の組み合わせによって 24個体全ての識別が可能であった.今後分析個体数を増やし,集団解析等への応用の可能性について更に検討する予定である.また,今回検討したのは得られた 3~5塩基繰り返し座位の 3.1%に過ぎず,より変異性の大きいマーカーが得られる可能性も考えられた.