抄録
クマネズミ (the Rattus rattus species complex)は世界中に広く分布する侵略的外来種であるが,その起源はアジア亜熱帯域にあり,これまでの mtDNA変異を基づいた研究によると,6つの地域系統群が存在し,さらにヒトに随伴し,分布域を拡大しているのはインド・ヨーロッパの系統Ⅰ,ミャンマー・南中国の系統Ⅱ,東南アジアの系統 Ⅳであることが示されている.日本には系統 Ⅱに属する集団が生息しているが,東京,小笠原諸島および小樽で系統 Ⅰの個体が見つかっている.またクマネズミの毛色には通常の茶色型と変異型の全身黒色型があり,我々はこれまで,沖縄島で発見された全身黒色型は, Asip (agouti signaling protein)上に責任変異があることを明らかにした.しかし,沖縄島の全身黒色型の系統的起源については明らかにされていない.そこで本研究では,Asipのexon 2 (401 bp), exon 3 (367 bp),exon 4 (347 bp)の3つのコード領域周辺をマーカーとして用い,系統Ⅰ,Ⅱ, Ⅳに属するクマネズミ 58頭を対象に系統地理学的解析を行った.連結配列 (ハプロタイプ;1115 bp)を用いて Splits Tree4で描いた Neighbor Net法によるネットワークにおいて,クマネズミの配列は 4つのクラスターに分かれた.2つのクラスターは系統Ⅰ,系統 Ⅳに相当し,残り2つは沖縄産黒色個体を含む日本産クマネズミを代表するクラスターであった.このことから,mtDNA系統 Ⅱに属する日本産クマネズミは,核遺伝子変異に基づくと,2つの別個の地域系統の複合系統として位置づけられることが示唆された. Asipの変異に見られた系統 Ⅱの融合の歴史を解明するために,現在, Asipハプロタイプ間の組換えに注目し解析を行っている.