霊長類研究 Supplement
第29回日本霊長類学会・日本哺乳類学会2013年度合同大会
セッションID: P-191
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ポスター発表
キタキツネ Vulpes vulpes schrencki集団における頭骨形態の地理的変異
*天池 庸介*浦口 宏二*増田 隆一
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抄録

 キタキツネ Vulpes vulpes schrenckiは北海道全域に広く分布するイヌ科の食肉哺乳類である.これまでのミトコンドリア DNA分子系統研究では,キタキツネ集団には3つの系統が分布すること (Inoue et al. 2007),核 DNAのマイクロサテライトによる集団遺伝的解析では,道南集団はその他の地域集団と比べて大きく遺伝的に異なること (Oishi et al. 2010)などが報告されている.一方,キタキツネ集団内の形態的特徴に関する研究例はない.
 そこで本研究では,2005年から 2006年に北海道各地から収集された 224個体分のキタキツネ頭骨を対象にして,その部位 25箇所と歯の 24箇所をノギスを用いて計測した.各部位毎の計測値について,Aspin-Welchの t検定と Bayesian Principal Component Analysis (BPCA)を行い,道東,道央,道北,道南の各地域間で地理的変異を解析した.
 その結果,雌雄ともに,道東集団の頭幅が道南集団よりも有意に大きかったこと,加えてそれらの中間に位置する道北 ‐道央集団間では各形質に有意差は見られず,道東および道南集団との相違が明瞭ではないことが示唆された.特に,道東集団の中でも東側に位置する中標津・根室集団の頭幅は顕著に大きいことも判明した.さらに,雄の犬歯について,道南集団が道東集団よりも発達していたが,道北 ‐道央集団間では歯のどの形質にも有意差は見られなかった.
 以上の結果は,キタキツネの道東集団と道南集団の間で,頭骨と歯の形態的分化が進んでいることを示している.これは従来のマイクロサテライトの集団遺伝学的解析 (Oishi et al. 2010)によって明らかとなった地理的分化と矛盾しない.以上の形態的地域変異の要因として,生息環境への適応や形態形成に関与する遺伝子群の遺伝的分化などが考えられる.この要因の解明は今後の課題である.

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© 2013 日本霊長類学会
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