抄録
【目的】トガリネズミ形目は霊長目と齧歯目の分化の基幹とされており,両者の間を埋める動物モデルとして意義が認められている.我々は同目の道内最優占種オオアシトガリネズミに着目し,2009年から実験動物化に向けて調査,採取,飼育を行ってきた.本研究では雌雄同居による繁殖実験を行い,産子を得ることに成功したので報告する.
【方法】オオアシトガリネズミは 5~ 10月に墜落缶で捕獲し,ジャンボミルワーム,冷凍コオロギで飼育した.繁殖実験の供試個体は尾の被毛で前年産まれと思われるものを選抜し,体毛ゲノムによるPCRで性別を確認した(第 58回日本生態学会).雌雄同居は多孔板の仕切りで 24時間の馴化をした後に行った.同居は 3または 7日間行い,同居前,同居終了時,同居終了後 14日に体重を測定した.
【結果】近縁で室内繁殖に成功しているヒメコミミネズミを参考にした 7日間の同居では,大幅な体重減少,個体の死亡が発生した.同居 7日に死亡した雌で子宮に直径約 2_の着床胚が観察され,この個体は同居の早い時期に交尾したことが推測された.同居期間を 3日間に短縮すると個体の体重減少は軽減され,同居 2日目に交尾行動が観察された.この個体は同居終了後 14日目に大幅な体重の増加,同居終了後 21日に 4仔の分娩が観察された.オオアシトガリネズミは体重測定による妊娠診断が可能で,妊娠期間は 23日前後であると推測された.捕獲した妊娠雌から産まれたものを含め,産仔はすべて離乳に至ることなく死亡した.同種の繁殖に当たっては,分娩した雌の飼育方法,特に給餌の改善が必須と思われた.オオアシトガリネズミを飼育下で交尾,分娩させることに成功し,同種を室内繁殖できる可能性が示された.