抄録
小笠原諸島の母島列島と父島列島および聟島列島にはクマネズミ (Rattus rattus)の分布する島が多く,ドブネズミ (R. norvegicus)は母島とその属島である平島だけに知られていた.しかし 2010年 10月の母島属島における調査により,平島以外にも妹島,姪島,姉島,向島でドブネズミが獲られた.これらのドブネズミは,日本本土で一般に見られるドブネズミよりも体が極端に小さい(体重比較には妊娠個体を含まない).月齢の対数値 (X)と体重 (Y)との間には,オス Y = 2.8 + 118.0X (r2 = 0.61, n = 15,p < 0.01),メス Y = 6.4 + 98.7X (r2 = 0.30, n = 26,p < 0.01)の関係が見られた.これに対して,東京湾の第 2海堡(1912年に建造された人工島で,越冬個体は冬季に体脂肪を消耗するので当年個体よりも小さい)で獲られたドブネズミの越冬個体はオスY = 6.7 + 274.5X (r2 = 0.48, n = 64),メス Y = 6.9 + 224.8X (r2 = 0.72, n = 55)である (Yabe, 1982).回帰式から,例えば 6カ月齢の体重を比較すると,オスとメスの順に母島属島では 94.6gと 83.1gに対して,第 2海堡では 220.3gと 181.8gであり,明らかに母島属島のネズミが小さい.ちなみに第 2海堡の当年個体ではオス281.3g,メス 259.9gとなり,さらに大きな差がある.ドブネズミでは遺伝的変異の小さいことが知られているので,母島属島における低体重は環境要因に起因するものであろう.