霊長類研究 Supplement
第29回日本霊長類学会・日本哺乳類学会2013年度合同大会
セッションID: P-198
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ポスター発表
赤ん坊をもちいた飼育チンパンジー( Pan troglodytes ) の社会的エンリッチメント
*平賀 真紀
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抄録
 集団で生活する霊長類にとって飼育環境は社会的な刺激に乏しい.たとえば,隔離や人工保育によって同種の仲間や母親から長期間離されたチンパンジー(,Pan troglodytes)は,社会交渉に乏しく,大人になっても交尾や育児が適切にできないなどの問題が指摘されている.飼育下で生まれた赤ん坊をできるだけ豊かな社会環境で生活できるようにすることはもちろんのこと,同居する大人個体にとっても赤ん坊の存在が良好な社会的刺激を与えると考えられてきた.しかし,大人どうしの交渉に赤ん坊が与える影響はほとんど分かっていない.横浜市立よこはま動物園では飼育環境を野生の状態に近づけることを基本理念とし,2009年よりチンパンジーの複雄複雌集団を飼育している.2011年 6月より社会管理のために行動観察を継続してきた.2012年に赤ん坊が 2個体誕生したことから,赤ん坊の社会的エンリッチメント効果を明らかにすることを目的として,赤ん坊が生まれる前と生まれた後ならびに赤ん坊の成長にともなう同居大人個体 7個体どうしの社会交渉を比較した.対象は,よこはま動物園で飼育されている 21~ 35歳のチンパンジー 7個体(雄2,雌5),観察期間は 2011年 8月 1日から 2013年 3月 31日までとした.行動は,飼育員 5名が交代で,放飼直後(9~ 10時の間)から 30分間観察した.1回の観察で 3~ 4個体,2~ 3日毎に全個体の行動を記録した.記録方法は,個体追跡法で,1分間隔の瞬間サンプリングとした.行動レパートリーは採食や休息など 13項目とし,対象が明確な場合は行為の方向も記録した.観察データは 1週間単位で,各個体・各行動レパートリーの頻度を算出した.その結果,6ヶ月齢までは赤ん坊による積極的な交渉は見られないにも関わらず,赤ん坊の誕生後に社会交渉はすべての個体で増加した.社会交渉の増加には成育歴による差が見られ,自然保育個体は人工保育個体よりも社会交渉が増加する割合が大きいことが分かった.
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© 2013 日本霊長類学会
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