抄録
日本におけるチンパンジー Pan troglodytesの飼育は,1920年代に始まったと考えられている.2013年 6月 20日現在, 326個体が 51施設に飼育されている.大型類人猿情報ネットワーク(GAIN)では,国内で飼育された類人猿の個体情報を収集しており,過去の飼育個体を含めたチンパンジー約 1000個体分の情報を把握している.それによると,日本国内の個体群は 1990年代にピークを迎え減少傾向にある.高齢個体の割合の増加,血統の偏りなども懸念されている.今後,動物園や研究施設等でのチンパンジーの個体数を維持していくためには,適切な飼育管理や繁殖計画が重要だと考えられる.本発表では,日本におけるチンパンジーの飼育形態の変遷を振り返る.個体の福祉や繁殖計画を立てるうえで重要な飼育形態に着目し,具体的には,GAINのデータベースに登録された情報より,飼育目的(動物園等での展示,医学研究,認知・福祉研究)および 1施設当たりの飼育個体数の変遷について分析をおこなった.戦前に数か所の動物園で飼育がおこなわれ,第二次世界大戦中は 1個体まで減少したが,戦後の動物園ブームにより展示目的での輸入が再開した.1970年代後半~ 1980年代にかけて,厚生省による肝炎研究の推進により医学研究用個体が多数輸入された.2012年には医学研究施設で飼育される個体がゼロになった.チンパンジーに関わるさまざまなできごとが,チンパンジーの飼育形態に変化を及ぼしてきたものと考えられる.個体の福祉や保全に対する意識の高まりによる影響も推察される.一方で,単独で暮らすなど野生本来の社会構造とはかけ離れた飼育形態を強いられる個体も依然として存在している.現在の問題点を見直し,今後の飼育管理や福祉に役立てたい.