霊長類研究 Supplement
第29回日本霊長類学会・日本哺乳類学会2013年度合同大会
セッションID: P-220
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ポスター発表
微生物叢の 16S rRNA遺伝子からトリトンハムスターの大きな前胃の役割を推測する
*篠原 明男*内田 栄太*井上 比加里*七條 宏樹*坂本 信介*森田 哲夫*越本 知大
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抄録

 哺乳類はセルロースなどの繊維質を加水分解する消化酵素を産生できず,それらを栄養源として利用する草食性哺乳類は,繊維質分解に寄与する微生物を消化管内に共生させている.ウシなどの前胃発酵動物は主に前胃に,ウマ・ウサギなどの後腸発酵動物は主に盲腸に微生物を共生させ,それぞれの消化管を大型化し発達させた.一方で小型齧歯類にも草食傾向の強い種が存在する.その中には前胃と盲腸の両方を発達させ,形態学的には前胃発酵動物と後腸発酵動物の両方の特徴をあわせ持つものもいる.これらの消化管のうち,盲腸は繊維質分解に寄与しているのではないかという報告が散見されるものの,前胃の役割は殆ど明らかになっていない.そこで本研究では,大きな前胃と発達した盲腸をもつトリトンハムスター( Tscherskia triton)の前胃と盲腸内の微生物叢を 16S rRNA遺伝子配列を用いて同定することで,前胃と盲腸の栄養学的な意義を検討した.
 前胃および盲腸内容物から抽出した DNAから,16S rRNA遺伝子(約1400bp)を PCR法によって網羅的に増幅し,サブクローニングを経て塩基配列を決定した.前胃から 234クローン,盲腸から268クローンの配列を解析したところ,前胃では Lactobacillus属(乳酸菌)が優占的に検出され,その多様性は大型反芻獣の前胃内微生物叢と比較して極めて低かったのに対して,盲腸内からは多様な微生物種が検出され,草食性の後腸発酵動物であるウサギの盲腸内微生物叢に匹敵する高い多様性が検出された.これらの結果から,トリトンハムスターの盲腸は繊維質分解に寄与していると考えられたが,前胃は大型の前胃発酵動物とは異なる役割を担っていると推測された.同定された微生物叢から推測する限り,前胃内では乳酸発酵が行われており,前胃は盲腸の補助的な発酵槽として機能している可能性も考えられた.

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© 2013 日本霊長類学会
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