抄録
【企画趣旨】ニホンジカなど一部の哺乳類では生息モニタリングのデータ蓄積が進み,統計モデルを駆使することで個体群の絶対数(密度)や年次変化が明らかになりつつある.モニタリングデータの基本骨格は共通する部分が多いので,先行事例に続きたい研究者は多いはずだが,統計モデリング初心者による推定作業は一筋縄ではいかない.本シンポジウムでは,複数の試行錯誤の事例を紹介しながら,できるだけ同じ轍を踏まないための教訓を導きたい.また,実際の運用には素人の独学だけでは難しいことから,統計モデリングのサポート体制についても議論する.
【演題1 千葉の事例:ニホンジカとキョンのシンプルなモデル構築-浅田 正彦(千葉県生物多様性センター)】千葉県に生息するニホンジカとキョンを対象に,区画法推定密度,糞粒法糞粒密度を用いて,状態空間モデルによる個体数推定を行った.モデル構築には,可能なかぎりシンプルで,それでいて現場で利用可能な精度をもつことを目指した.検討したモデルについて両種で異なる点,共同研究者のモデラー各位からの教示内容,そして,検討したが不採用としたパーツなどについて紹介したい.
【演題2 北海道の事例:単純なモデルでも個体数や増加率が推定できないこともある?-上野真由美(道総研・環境研)】北海道では絶対数を調査する区画法はないが,5kmメッシュでの 1人 1日あたりの目撃数(SPUE)と捕獲数を用いて,個体数,増加率,捕獲数からなるシンプルな個体群動態モデルを作成し,メッシュ別年別個体数と年別増加率の推定を試行した.推定の成功・不成功を比較しながら,推定成功につながる基本構造を見出したい.
【演題3 ベイズ個体群動態モデルと付き合うための 7つのコツ-深澤圭太(国立環境研究所)】階層ベイズモデルによりモニタリングデータから個体群動態を推定する際に,パラメータが収束しない,原因不明のエラーが起きるなどの症状に見舞われ,途方に暮れた経験をもつユーザーは多いと思われる.本講演では,奄美大島のマングースを対象とした Fukasawa et al. (2013)を例に,試行錯誤の過程で気づいた推定に失敗しないためのコツを紹介する.
【演題4 統計モデリングのサポート体制-岸本 康誉(野生動物保護管理事務所,兵庫県立大学),坂田宏志(兵庫県立大学)】兵庫県や島根県のシカの個体数推定のプログラム開発と,他の都道府県への普及に向けて,データに合わせてプログラムを修正するコンサルティングを含めた「野生動物管理意思支援システム」を開発した.このシステムは,個体数推定や将来予測に限らず,目標設定や対策の効果検証のためのアウトプット等が出力される.本講演では,個体数推定プログラムの汎用化に着目し,行政,研究機関,民間企業の役割分担についても議論したい.