霊長類研究 Supplement
第29回日本霊長類学会・日本哺乳類学会2013年度合同大会
セッションID: MS-23
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ミニシンポジウム
哺乳動物の食-探索から消化まで
*中川 尚史*島田 卓哉
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抄録
 採餌に関する理論においては,動物は「エネルギーもしくは何らかの栄養素の摂取効率を最大化するよう採餌を行っている」と考えられている.実際の行動としては,動物は,食物を探索し,見つけたら場合によっては殻を割る,皮を剥くなど若干の操作をし,口に入れる.その後,咀嚼という処理をし,嚥下後は,消化・吸収が行われる.これらの過程は,採餌効率の最大化という視点から統一的に理解することが重要であるにもかかわらず,研究の対象としては,「探索」,「操作」,「摂取」,「処理」,「消化・吸収」は,個別に取り扱われてきた.特に,「探索」から「摂取」までは直接観察可能なため生態や行動の研究者が,「処理」から「消化・吸収」は,解剖や生理の研究者という形で分担され,総合的に論じられる機会は少ないという現状がある.そこで,本集会では,哺乳動物の採餌行動を探索から消化までの一連のものとして理解するための取り組みとして,以下の 4つの話題提供を行う.

演題1.「植食者にとって採餌速度とは?」 中川尚史(京大・人類進化論)
 採餌効率に関わる二大要素の一つである「採餌速度(単位時間あたりの餌量)」は,植食者においてはほとんど注目されてこなかった.本発表では,採餌速度,言い換えれば食物の量や大きさが,採餌量を高める上でいかに重要か,動物種の大きさ,生息地の植生や季節性にも触れながら話題提供する.

演題2.「植食者にとって質の良い餌とは?」 島田卓哉(森林総研・東北)
 「食物の質」は採餌速度と並んで採餌効率に関わる二大要素の一つであるが,様々な要素を考慮した上で,どのような指標によって質を評価すべきかが難しい.タンニンをはじめとする防御物質にどう動物が対応しているのかを解説しつつ,食物の質の評価における課題について,植食者を対象として話題提供する.

演題3.「ニホンザルの食-探索から消化まで」 澤田晶子(京大・霊長研)
 ニホンザルは,季節や地域に応じた幅広い食物レパートリーを持つ.本発表では,採食行動を「食物摂取前」と「食物摂取後」に分け,前者についてはニホンザルがどのようにして食物を選ぶのか,後者については食物の質・量と消化・吸収の関連性について話題提供する.

演題4.「ツキノワグマの食-野外での採餌行動と消化生理とをつなぐ」 中島亜美(多摩動物公園)
 ツキノワグマは,その時々の食物資源量に応じて柔軟に食物を変える採餌戦略をとると考えられている.野生個体の採餌・探索行動の季節変化を,供餌実験で得られた消化・吸収に関する知見に基づいて考察し,「探索から消化まで」をつなぐ取り組みについて話題提供する.
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© 2013 日本霊長類学会
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