霊長類研究 Supplement
第29回日本霊長類学会・日本哺乳類学会2013年度合同大会
セッションID: C2-1
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口頭発表
クモザル亜科L/Mオプシン多型の進化的改編による果実と背景葉の色識別能の向上
*河村 正二*松本 圭史*平松 千尋*松下 裕香*小澤 範宏*蘆野 龍一*中田 真紀子*笠木 聡*A Di Fiore*C M Schaffner*F Aureli*A D Melin
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抄録

 新世界ザルは L/Mオプシン遺伝子の多型により顕著な色覚多様性を示す.しかし,霊長類で最大吸収波長(Lmax)が既知の L/Mオプシンは 3か所のアミノ酸サイト(180,277,285)の多型の組合せから期待される値に Lmaxが限定されている(3サイトルール).我々は近年クロテクモザル(Ateles geoffroyi)に見られる 2つの L/Mオプシンアレルがその例外であることを報告した.3サイトルールからの逸脱はアレル間の Lmaxの相違を 1.5倍に広げている.しかし,これに視覚生態学上の意義があるのか,また,相違をもたらしたアミノ酸変異は何でありクモザル進化史のいつ生じたのかは未解明であった.そこで我々はまず吸収波長シフトの進化史を明らかにするためにクモザル亜科からケナガクモザル(A. belzebuth)とコモンウーリーモンキー(Lagothrix lagotricha)の L/Mオプシン遺伝子配列を決定し,塩基変異導入と視物質再構成実験を行なった.その結果,クモザル亜科において 2つのアレルの祖先アレルに生じた Y213Dが,アレル分化後の一方に生じた N294Kに大きな吸収波長シフトを生じせしめ,3サイトルールのひとつ Y277Fと相加的に 2つのアレルの吸収波長分化をもたらしたことを明らかにした.次に,クモザルの生息地で採集した主要採食果実 23種とその成熟葉の色度を,クモザル L/Mオプシンアレル Lmaxの 3サイトルールからの期待値でモデル化した場合と,実測値でモデル化した場合で算定した.その結果,実測値モデルの方が期待値モデルよりも葉に対する果実の視認性が有意に高いことを示した.本研究によりクモザル亜科に見られる L/Mオプシン多型の進化的改編とその意義が明らかとなり,新世界ザルの色覚進化にこれまで知られていなかったダイナミズムを示すことができた.

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© 2013 日本霊長類学会
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