抄録
ヨザル属 (genus Aotus) は,染色体に関して目立つ点が2つある.開裂や融合などの核型変異が多いことと,構成的ヘテロクロマチンを大量にもつことである.一方が原因で他方が結果であるのか,あるいは他に原因があって両方が結果であるのかは,不明である.これを明らかにするという長期的な目標のもと,構成的ヘテロクロマチンの形成の過程を推測した.
材料にはアザラヨザル (A.azarae) を用いた.この種は体細胞に,メタセントリック染色体(セントロメアが中ほど)を20本,アクロセントリック染色体(セントロメアが端近く)を30本もつ.アクロセントリック染色体の短腕は,大部分が構成的ヘテロクロマチンである.まずこのヘテロクロマチンの DNA 成分(OwlRep とよぶ)をクローンとして得た.塩基配列は,187 塩基対の単位が縦列に繰り返す状態となっていた.この繰り返し単位は,内部に小さな繰り返しを多数含んでいる.この入り組んだ構造のために,DNA 複製の際に切断が起こりやすいことが予想される.続いて OwlRep の染色体上の場所を調べた.アクロセントリック染色体短腕に加え,少数のメタセントリック染色体のセントロメア周辺にも小規模で存在することがわかった.
アクロセントリック染色体の短腕は,セントロメア周辺であると同時にテロメア近傍であるともいえる.OwlRep の染色体上の分布は,つぎの3つを仮定することで,容易に説明がつく.(1) 異なる染色体の間でのセントロメアの相互作用を通して,OwlRep は染色体から染色体に移った.(2) メタセントリック染色体に移ったものは,切れやすい高次構造のために大規模な増幅はできなかった.(3) アクロセントリック染色体に移ったものは,高次構造の影響は小さく,テロメア近傍のヘテロクロマチンとみなされて増幅した.