抄録
真獣類の Xと Y染色体はもともと一対の相同な常染色体であったが,現在ではごく小さな相同領域(偽常染色体領域:PAR)においてのみ組換えを起こす.PARは性染色体に常染色体領域(neo-X,neo-Y)が付加されることで拡大するが,その後に Y染色体 PARが欠失することで縮小する過程を経て進化したと考えられている.われわれはこれまでに,トゲネズミ属の共通祖先から分岐後のオキナワトゲネズミにおいて性染色体に常染色体が転座したことを明らかにしている.進化の初期段階にある neo-Xと neo-Yをもつ本種は上述の仮説を検証するために有用なモデルになると考えられ,本研究ではオキナワトゲネズミにおいて祖先 Y染色体領域およびneo-X,neo-Yの矮小化の程度と PARとしての機能性の有無を明らかにし,Y染色体進化における常染色体転座の役割を実証することを目的とした.
オキナワトゲネズミの祖先 Yユークロマチン領域の約 373kbの塩基配列を決定した結果,本領域の構造は SRYの配置を除きマウスの Y染色体と高い相同性を示していた.また, DDX3Yと UTYの機能配列に近接する EIF2S3Y,SRY配列が偽遺伝子化していた.neo-X, neo-Yにおいては動原体近位部(祖先 Yの近位部)に少なくとも部分的に遺伝的分化がみられ,一部の領域で neo-Xに比べて neo-Yの進化速度が有意に増加していた.一方で,遺伝的分化がみられなかった末端部では,複数の遺伝子領域において他種と比較して塩基置換率が増加し, A/Tから G/Cへの塩基置換パターンの頻度が高くなっていた.高頻度に組換えを起こす PARは他領域に比べて GC含量が高いことが知られており,neo-X,neo-Yの末端部が新しい PARへと進化している可能性が考えられた.