霊長類研究 Supplement
第30回日本霊長類学会大会
セッションID: A18
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口頭発表
ヤクシマザルは専制的でなく寛容的か?―infant handlingの観点から
*中川 尚史*谷口 晴香
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抄録
ニホンザル一般を含む専制型マカクでは、母親は自身のアカンボウに保護的であって、アカンボウを頻繁に回収するためアカンボウと交渉するのは母親に限定される。他方、寛容型マカクでは、母親は許容的であるため母親以外のメスによるinfant handling(以下、IH)が頻繁にみられると言われている(Maestripieri, 1994; Thierry et al., 2000)。近年、ニホンザル種内においても、寛容型マカクの一部の行動形質を持つ個体群が小豆島、淡路島、屋久島で報告されてきた(Nakagawa, 2010)が、母親の許容性が高いか、IHが頻発するかについては、比較データがなく検討されていない。そこで本研究では、ヤクシマザルを対象に母親の許容性とIHの頻度を定量化し、その結果を専制的である高崎山由来のローマ動物園のニホンザルのデータ(Schino et al., 2003)と比較した。
調査は、2013年7月に屋久島西部林道沿いに遊動域を構えるUmi群を対象に行った。母親とアカンボウ4ペアを各10~17時間個体追跡し、IHのタイプ、ならびにその参与個体、IHに対する母親の反応を連続記録した。ただし、IHの頻度については比較データの収集法である15秒間隔のワンゼロ法に合わせて分析した。
その結果、アカンボウが受けるpositive IH(抱擁、毛づくろい、運搬)の頻度は、1.4回/時と高崎山の同齢個体に比べて高かった。他方、IHに対する母親の反応(接近、回収、攻撃)率は、positive IHでは7%、neutral IH(手、鼻、口による接触)では0.9%、negative IH(引っ張る、威嚇、攻撃)では12%と、いずれも高崎山の同齢個体に比べて低かった。以上のことから、ヤクシマザルはIHの観点からも寛容型マカクの行動形質を併せ持っていることが示唆された。
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© 2014 日本霊長類学会
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