霊長類研究 Supplement
第30回日本霊長類学会大会
セッションID: B22
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口頭発表
ヒト特異性を探るツールとしてのチンパンジーiPS細胞
*今村 公紀*リン ユーチン*西原 浩司*日下部 央里絵*岡野 James洋尚*今井 啓雄*平井 啓久*岡野 栄之
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抄録

ヒト固有の形質の獲得とその進化のプロセスは、生物学研究における古典的な命題の一つである。ヒト特異性について研究を行う上で、近縁かつ現生する非ヒト霊長類、とりわけ類人猿との比較系統解析は不可欠であるが、動物種としての希少性や生命倫理の観点から、類人猿個体を生命科学研究の対象とすることは不適切である。一方、僅かな組織片からでも作成可能な人工多能性幹(iPS)細胞は、半永久的に増殖すると共に任意の細胞種へと分化誘導することも可能である。また、分子生物学における近年の基盤技術の発展により、モデル動物と非モデル動物の垣根が小さくなり、過去の知見の蓄積に対する依存度も小さくなってきた。従って、類人猿iPS細胞を樹立することによって、研究用途の細胞試料を非侵襲的に供給し、現代に則した分子・細胞生物学的アプローチを適用することが可能になると考えられる。
以上の背景を踏まえ、本研究ではチンパンジー線維芽細胞(雌・新生児皮膚由来、雄・成体精巣由来)を用いたiPS細胞の作成に取り組んでいる。これまでに、エピソーマルベクターにて初期化因子を導入した細胞をグラウンドステート条件で培養することにより、アルカリホスファターゼ陽性のiPS細胞を高効率に誘導する系を確立することに成功している。これらの細胞はクローン培養および凍結保存が可能であり、多能性マーカー遺伝子の発現やテラトーマ形成能も確認された。また、ニューロスフェア形成培養によって神経系特異的な分化誘導も可能であった。チンパンジーiPS細胞から様々な細胞種を分化誘導し、ヒトおよび他の非ヒト霊長類と比較解析を行うことで、ヒト自身に対する理解が深まるものと期待している。

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© 2014 日本霊長類学会
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