抄録
チンパンジー,ゴリラ,オランウータン,ニホンザルの深腓骨神経(NPP)の足背分布について肉眼解剖学的に調べた.NPPは足背で外側枝と内側枝に分かれ,外側枝は短母趾伸筋と短趾伸筋へ筋枝を分岐した.内側枝は第2-4趾の背側趾縁に分布する背側趾神経となったが,趾縁の範囲や浅腓骨神経との交通の有無などは,種や個体により様々であった.ここでは,第1趾背側の内側縁から第5趾背側の外側縁を第1-10趾縁と呼ぶこととする.
NPP内側枝の趾縁分布はチンパンジーでは第2-5趾縁,ゴリラでは第3-5趾縁であった.オランウータンでは第4,5趾縁に分布する場合と,内側枝がない場合があった.ニホンザルでは第4,5趾縁に分布した.ヒトのNPP内側枝は第2,3趾縁に分布することが一般的である.
霊長類の足の機能軸はヒトでは第2趾,サル類では第3趾である(Hirasaki and Kumakura, 2010, Int J Primatol, 31:239-261).NPP内側枝の足趾背側への分布も,機能軸と共に内側に移動したと言えるが,常に機能軸の内側に分布していた.それに対し樹上生活が主であるオランウータンではNPP内側枝がないか,あるいはあっても貧弱であった.また,歩行時に趾先にかかる最大圧力は,ヒトでは第1趾(Hughes et al, 1990, J Bone Joint Surg, 72:245-251)あるいは第2趾(宮崎,1993, 日整会誌,67:606-616),チンパンジーでは第3,4趾のようである(Elftman and Manter, 1935, Am J Phys Anthrop, 20:69-79).NPP内側枝の足趾への分布がどのような機能的意義をもつかは不明であるが,本研究の所見からは霊長類の歩行とNPPの分布になんらかの関係がある可能性が示唆された.