霊長類研究 Supplement
第30回日本霊長類学会大会
セッションID: P11
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ポスター発表
野生チンパンジーのアカンボウにおける離乳への適応性
*松本 卓也
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抄録

植物食の霊長類において、離乳期のアカンボウは、授乳量の減少に伴い、外部環境から必要な栄養を補わなくてはならない状況にある。しかし同時に、アカンボウは咀嚼能力や消化能力が未発達であるために、オトナと同じ品目・同じ量の植物を採食することが困難であるとの指摘がある。そのため離乳期のアカンボウは、環境内の植物種の中から、栄養を補うことができ、かつ採食可能な品目を取捨選択して食べる必要があると言える。
先行研究において、母子間の採食品目の相違は、これまで多く指摘されてきたものの、次第に母親(あるいは他のオトナ)と同じ品目を採食するようになる学習の過程、として分析されることが多かった。そこで発表者は、アカンボウ期が4-5年と長いチンパンジーを対象に、アカンボウが離乳に際して母親と異なる品目を採食する、といった適応を示しているかどうかについて検討した。
本研究の対象はタンザニア・マハレ山塊国立公園の野生チンパンジーM集団に属する母子8組である。発表者は2012年9月から2013年8月の期間において、(1)子の乳首接触時間、(2)母子の採食品目、採食時間、および採食場面におけるやりとりについての行動データを収集し、母子間の採食品目の違いや、採食時間の重複について分析した。
その結果、30月齢以降のアカンボウは母親が採食していない時間にも独自に採食している傾向が比較的強く、また、その際に採食される品目の多くは植物の髄であった。チンパンジーの授乳への依存度は36月齢前後までに大幅に減少するとされており、アカンボウによる独自の採食は、授乳量の減少に伴う栄養不足を補うために行われている可能性がある。これらの分析結果から、野生チンパンジーのアカンボウにおける離乳への適応性について、特にアカンボウと外部環境の関係性に着目して議論する。

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© 2014 日本霊長類学会
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