霊長類研究 Supplement
第30回日本霊長類学会大会
セッションID: P12
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ポスター発表
育児スイッチはいつ入るのか?-チンパンジーにおける共同育児の萌芽に関する研究
*水野 友有
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抄録

ヒトの共同育児において育児そのものを子どもと母親との分業ととらえると、子どもも共同育児の重要なメンバーだといえる。つまり、子どもは育児の初期から養育者の手助けをしている可能性がある。そこで本研究では、共同育児の初期における進化的基盤を探るために、チンパンジーの育児において、母親の育児行動はいつどのように発現するのか、子どもの行動との関連から検討した。京都大学霊長類研究所で飼育されているチンパンジーの過去の出産事例について、子どもが生まれた直後から母親による育児が開始するまでのエピソードを詳細に記述した。また、ビデオ記録から母子それぞれの行動目録を作成した。2003年5月15日、子ども(ピコ)は群れのメス(レイコ)に抱かれているところを発見された。群れの状況から、レイコではなく別のメス(プチ)が出産して育児拒否し、放置されたピコをレイコが抱いたと推測され、その後人工保育となった。人工保育の間に、母子合わせが実施された。居室での同居で合わせは飼育員がピコを抱いてプチと同居する場面(飼育員場面)とピコを床に単独で寝かせた状態でプチと同居する場面(単独場面)だった。飼育員場面では、プチがピコに接触することはなく、顕著な母子相互交渉はなかった。一方、仰臥位場面では、ピコは常に四肢を動かし、プチは間もなくピコに接近した。プチが移動する際に、ピコは頭部を動かし、プチを追視する行動がみられた。また、ピコが発声した際には、プチは直ちにピコに接近し、両手を床についてピコに体幹を近づける場面が頻繁に観察された。プチが接近すると、ピコがプチの腹部をつかむこともあった。こうしたエピソードや観察結果から、チンパンジーの育児においては、子どもの「単独仰臥位」、「四肢の動き」、「発声」により養育者の接近行動が引出され、接近時に把握反射をはじめとする「新生児反射の出現」が接触の機会となり、その後の母親による育児につながると考えられた。

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© 2014 日本霊長類学会
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